「あたりまえだと思っちゃいけない」
ベンジャミン

ありふれた日常に
埋もれている特別

   ※

午後の授業
雨が降ったり止んだり
不安定な空模様

その生徒は
そんな天気に関係なく
いつも笑顔で教室にくる
だからそれがあたりまえだと思っていた

明るくて
元気で
良くできる

他の講師や生徒から見てもそう
だからこそ
要求される事も大きくなって
それさえも
あたりまえになっていたのだと

次の英検のことを話しているときだった
「ごめんなさい」と
その生徒は突然僕にあやまる
見ると瞳いっぱいになった涙が
こらえきれずにこぼれていた
「ごめんなさい」と
その生徒はまたあやまる
こらえきれない涙を隠すように
僕から視線をそらす

「そっかぁ 辛かったんだぁ」と
僕は呟く

頑張れば頑張るほど
それがあたりまえになってゆく辛さ
僕はそれを知っていたはずなのに
感じ取ることを忘れてしまう
気をつけていたつもり
それが言い訳だということを
その生徒の涙が訴えている

「ごめんね いつも笑顔だったから」
そのあとに続く言葉を
僕は知らない

何度同じような場面にあっても
そのあとに続く言葉を
僕は知らない

そんな自分が悔しくて
それから少し
お話をする

頑張れば頑張るほど
それがあたりまえになってゆく辛さ
それをそっと包み込むように
くだらない話をする

瞳いっぱいの涙では映らない教科書
僕はその生徒の泣き声を隠すように
大きな声で読み上げる

終業のベル

ハンカチをわたして
「ここでは笑顔でなくてもいいんだよ」と

「はい」
という生徒の笑顔に

救われるのはいつも僕の方だ



   

       


自由詩 「あたりまえだと思っちゃいけない」 Copyright ベンジャミン 2008-04-04 17:23:08
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