バレリーナの爪先
新谷みふゆ

滑るように動く羽には じっと堪える足元が
爪先は息を殺し空に憧れる
バレリーナの脚をして 彼女は今日も笑った

三日月を捕ろうとしていた小さな女の子は
或る日欠けた場所を知り 深さに気付く
どれだけのものを彼女は受け入れているのだろう

三日月が描く円の中であたしは大きくなった
神経質な棘は何度も彼女を困らせたろう
宥めて宥めて 優しい手は血を流し棘を抜く

真っ白な扉を開けた向こう
白梅の香りが包む
彼女はいつもバレリーナの脚をして
あたしを呼んでくれる


好きだったと云う浴衣を解く手は迷いがなくて
傍で寝転ぶあたしの髪を撫でては
バレリーナの脚をして 穏やかに笑っていた

血豆が染め上げた足の裏を知る人もなく
鏡の前で泣いたら それでおしまい
バレリーナの爪先をして 羽を動かす彼女

三日月が搾りだす乳で あたしは大きくなった
悲しみを包んで人の肩は丸くなるんだろう
こっそり隠した腿のアザは無花果色をしていた

そうして風のないよく晴れた日に 彼女は
世界の命に溶ける・・・
あたしはいつも バレリーナの脚をした
彼女に追い付けない


自由詩 バレリーナの爪先 Copyright 新谷みふゆ 2008-04-03 20:04:00
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