潮騒
れつら

速度が燃えている
千切られた紙が空中に乗り
方位を失っているのだ
気紛れで開けた窓から、風
陽光だけが揺られず、ベランダに線を引っ掻く
じわりじわりと来た
それが春だった

爪先ひとつで扱う出来事が堆積し硬直し
緊密な構造となっているのだった
駅通りに新築されたマンションをもう僕は笑えない
同じように流れ着いた石いしも
ひとつは防波堤になりもうひとつは波に砕けていくのだった
コンクリが固まりかけるように足は地を這い
まだあきらめのつかぬ砂粒がじゃずりじゃずりと裏では擦れている

そしてスーパーマーケットの惣菜売り場では
土方の男が半額の弁当に手を伸ばしている
ひとつの娯楽もないように見えた
彼も
窓際で呻くだけの僕も
待たれたまま通り過ぎた潮騒も


自由詩 潮騒 Copyright れつら 2008-04-02 13:36:30
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