夜桜
舞狐
街灯がぽつんと揺らめく夜
私の嫌いな公園に咲く
桜の花を見に行ったことがある
私が眠っていたら
仕事から帰宅した母が
お酒臭い息で興奮気味に私を揺り起こした
お前の好きな公園が
とっても綺麗だよ
と。
パジャマの上からガウンを着て
まだ寒い夜道を母に手を引かれ走った
公園の桜は見事だった
下から見上げた桜は街灯に照らされ光輝きながら
花びらを散らして
私に浴びせてくれた
ひっそりとした夜中の公園は桜のためだけにあるように感じた
遊具は眠り
存在は影をひそめ
昼間の子供たちのざわめきも
遠くしまい込み
ただ 私だけを歓迎しているように感じた
夜桜の思い出は
これだけにしよう
なんて思った
今 この瞬間を心にしまい込み
これから先
見るであろう夜桜は
みんな脇役にしてやろう
って決めた
生きることに疲れ
お互いを知ろうと思えば空回り
そんな悲しい時代に見た桜
やるせない母と
淋しく孤独な私の
なんとなく接点
一番近くの遠い親子の
綺麗な思い出の桜
言葉はない
ただ
目の前の桜に見入る
母と私
それが夜桜の思い出
遠い昔の話