夜桜
舞狐

街灯がぽつんと揺らめく夜
私の嫌いな公園に咲く
桜の花を見に行ったことがある

私が眠っていたら
仕事から帰宅した母が
お酒臭い息で興奮気味に私を揺り起こした

お前の好きな公園が
とっても綺麗だよ

と。


パジャマの上からガウンを着て
まだ寒い夜道を母に手を引かれ走った


公園の桜は見事だった
下から見上げた桜は街灯に照らされ光輝きながら
花びらを散らして
私に浴びせてくれた


ひっそりとした夜中の公園は桜のためだけにあるように感じた

遊具は眠り
存在は影をひそめ
昼間の子供たちのざわめきも
遠くしまい込み


ただ 私だけを歓迎しているように感じた


夜桜の思い出は
これだけにしよう
なんて思った

今 この瞬間を心にしまい込み
これから先
見るであろう夜桜は
みんな脇役にしてやろう
って決めた


生きることに疲れ
お互いを知ろうと思えば空回り
そんな悲しい時代に見た桜

やるせない母と
淋しく孤独な私の

なんとなく接点

一番近くの遠い親子の
綺麗な思い出の桜


言葉はない
ただ
目の前の桜に見入る
母と私

それが夜桜の思い出

遠い昔の話


自由詩 夜桜 Copyright 舞狐 2008-03-31 20:34:05
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