高田馬場哀歌 
服部 剛

春雨の降る夕暮れ時に 
私は傘も差さずに 
飲み屋の前で 
酔っ払った学生達の 
笑い声を背後に 
高田馬場駅への道を行く 

吉野家の入り口に
貼られたポスターは
先日婚約発表をして 
レギュラー奪取に燃える 
同い年の松井秀喜が 
いつもと違う吉野家のユニホームを着て 
手にした桜印の扇子を仰ぐのを横目に 
高田馬場駅への道を行く 

イヤフォンを入れた
耳に響く 
黒人霊歌を聞きながら 
昨日までの弱い自分を葬るように 
高田馬場駅への道を行く 

通いなれたレストランで 
密かな愛を抱いていた 
ふらんす人形に似た店員の女と 
初めて言葉を交わした 
今日というささやかな記念日 

屍の自分の人形を
脱ぎ捨てて 
今迄よりも生きようと思う 
独り歩きの夜 

目に見えぬ日頃の敵は 
他の誰でもない自らで 
腑抜けた己を斬る為に 
幻のさやから抜いた光の剣を 
雨雲の覆う暗天に掲げる 

信号待ちの向こうの駅に 
少年の日の夢のように流れる 
鉄腕アトムのメロディー 

静かに降り続く 
春雨の重力に 
俯きそうな顔を 
もう一度 
あげてみる 








自由詩 高田馬場哀歌  Copyright 服部 剛 2008-03-31 12:53:06
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