春の準備体操
佐野権太
学生たちが
そこここに円くあつまって
華やいでいる
どうしたら
あんなふうに笑えただろう
そういえば、もう
何年も卒業していない
花壇のすみで
孤立無援だった球根さえ
新しい黄緑をのぞかせて
確かな旋律を紡いでいる
春、と呼べば
君は飛んできてくれるだろうか
すわろー
**
芽吹きかけた桜の枝に
雀がとまって
細かく羽根をふるわせている
青い屋根の縁から
もういちわ
誘われるように
もういちわ
ときおり
ぱっと弾ける
またはじめから
整列がはじまる
ゆびを組んで
手のひらを裏返し
前に反らせる
胸を空にして
ひかりを吸いこむ
春だなあ
と思う
**
誕生日には
何が欲しいと聞かれて
迷わず、やぎ
と答えた
首には赤いバンダナを巻く
朝、起きると
やぎがいて
若草を食んでいる
ときおり
カランと
やわらかく鈴が鳴る
午後は
ひかりに透ける
耳の血脈をたどり
ちいさな鼓動を
確かめて眠る
ここにいればいい、ずっと
その鼻先に
ふれる