「美しいことに理由はいらない」
ベンジャミン


昼下がりの教室が好きだ
土曜日、テスト終了後のちょっとした時間
つかのま開放されたような空気が好きだ
そして特にやらなくてもいい採点を
僕は好きでやっている

どうせ僕が採点しなくても
テスト業者が機械的に処理してくれる
けれど僕は採点するのが好きなので
たまにとんでもない珍解答を見つけると
嬉しい半分、がっかりしたりする
そんな気分の変化が好きだ


ある生徒の解答用紙
国語の問題でやたらと空白が目立った

(問い)
「そこで筆者が美しいと感じた理由を書き抜きなさい」

ある生徒の解答用紙
見事なまでにきれいな空白だった


僕はその生徒に何かしら書くものだと注意した
するとその生徒はまるでへいっちゃらな顔で

「だって先生、美しいことに理由はいらないでしょ」と

僕はまさに心臓を射抜かれたような衝撃で
返す言葉をなくしていた

下手な言い訳だとはわかっている
けれどそれが間違いだと言い切ってしまうことが
僕はどうにも悪い気がして

それでも、
それでも何かしら書くものだ

僕は何だかちょっとむきになっていたと思う
どうせテスト業者は機械的に×をつけるし
やっぱり先々のことを考えると
答えはしっかり書くものだ

(美しいことに理由はいらない)

下手な言い訳だとはわかっている

けれど
僕はその見事な空白に、小さな○をつけていた



    
    


自由詩 「美しいことに理由はいらない」 Copyright ベンジャミン 2008-03-28 01:17:28
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