「美しいことに理由はいらない」
ベンジャミン
昼下がりの教室が好きだ
土曜日、テスト終了後のちょっとした時間
つかのま開放されたような空気が好きだ
そして特にやらなくてもいい採点を
僕は好きでやっている
どうせ僕が採点しなくても
テスト業者が機械的に処理してくれる
けれど僕は採点するのが好きなので
たまにとんでもない珍解答を見つけると
嬉しい半分、がっかりしたりする
そんな気分の変化が好きだ
ある生徒の解答用紙
国語の問題でやたらと空白が目立った
(問い)
「そこで筆者が美しいと感じた理由を書き抜きなさい」
ある生徒の解答用紙
見事なまでにきれいな空白だった
僕はその生徒に何かしら書くものだと注意した
するとその生徒はまるでへいっちゃらな顔で
「だって先生、美しいことに理由はいらないでしょ」と
僕はまさに心臓を射抜かれたような衝撃で
返す言葉をなくしていた
下手な言い訳だとはわかっている
けれどそれが間違いだと言い切ってしまうことが
僕はどうにも悪い気がして
それでも、
それでも何かしら書くものだ
僕は何だかちょっとむきになっていたと思う
どうせテスト業者は機械的に×をつけるし
やっぱり先々のことを考えると
答えはしっかり書くものだ
(美しいことに理由はいらない)
下手な言い訳だとはわかっている
けれど
僕はその見事な空白に、小さな○をつけていた