黒頭巾ちゃんとクリスマスケーキ
チアーヌ

 黒頭巾ちゃんは、電車で2駅の場所にあるケーキ屋へ、クリスマスケーキを注文するためにお出かけしました。
 もちろん、普段の黒頭巾ちゃんは緑の頭巾を被っていますので、黒頭巾だと見破られるようなことはありません。

「緑頭巾さん、わざわざお越しいただいてありがとうございました。先日お届けしたパンフレットからお選びいただいて、お電話でご注文いただいてもよろしかったのですが」
「そうしようかと思ったのですけれど、たまにはこちらへ来るのもいいかなと思って」
 静かな住宅街の中にある、このケーキ屋は、黒頭巾ちゃんのお気に入りの店で、黒頭巾ちゃんはこのお店からケーキや焼き菓子、チョコレートなどをよく届けてもらっているのでした。
「本当にわざわざありがとうございます。それでは、もしよろしかったら奥の部屋で新作のケーキなどご試食して行かれませんか。クルミを入れたタルトにキャラメリゼしたりんごを乗せて、あっさりした生クリームを添えたものなのですが」
「それはおいしそうね」
 黒頭巾ちゃんは奥に案内されて、ケーキと紅茶を頂きました。
 この店は老舗で、優秀なパティシエを何人も雇っており、都内に何店舗かあるのですが、やはりこの本店のケーキがおいしいと、巷では評判が高いのでした。
 そして、この本店ではカフェも併設しており、奥の方には個室もあるのでした。

 黒頭巾ちゃんが静かな個室で、おいしいケーキを食べ、紅茶のお代わりをもらって飲んでいると、店のオーナーが現れました。
「ケーキの味は、いかがでしたでしょうか?」
「ええ、とてもおいしかったわ」
 黒頭巾ちゃんはそう答えながら、コトリ、と紅茶のカップをテーブルの上に置きました。
 お店のオーナーが、そっと個室のドアに鍵をかけ、黒頭巾ちゃんを見つめたからです。
 こんなことは、前にもありました。
 そのときは、黒頭巾ちゃんから誘ったのです。どんな風にして誘ったのか、黒頭巾ちゃんはもう覚えていませんが。
 黒頭巾ちゃんは、薄明るい光の差し込むカフェの個室で、するすると、緑の頭巾を脱ぎました。

 お店を出ると、まだ、驚くほど昼間でした。
 体がだるくなり、電車に乗るのがイヤになった黒頭巾ちゃんは、駅前でタクシーを止めると、乗り込みました。
 すると、携帯電話が鳴りだしました。
「はい」
 相手を確かめることもしないまま、黒頭巾ちゃんが電話を受けると、相手はおおかみでした。
「あら。なにか用?」
「なにか用、じゃねえよ。そろそろクリスマスパーティだろ。段取りの方はできてるか」
「ケーキは頼んだわよ」
「しらばっくれるのもいい加減にしろよ。まぁいいけどな」
 電話が切れると、黒頭巾ちゃんは小さな溜め息をつき、タクシーのエンジン音を聞きながら、そっと目を閉じました。




散文(批評随筆小説等) 黒頭巾ちゃんとクリスマスケーキ Copyright チアーヌ 2008-03-27 16:39:38
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