虫
ホロウ・シカエルボク
蚤の足取りを辿る形骸化の生業
思考の傷口に沸いた蛆どもが正気を喰らう音が五月蝿い
漆喰の壁に浮かんだ雨漏りの名残が
やがての父母の死体に見えて身震いをする夜
時計の針の様に大人しく生きられない
サクリファイスを予感して
時間から逃れる様な片隅へ蹲る無暦の居住区
住所が幻に思えて
届かない気がして手紙は出さなかった
助けを求めているのではと勘繰られるのが嫌だったのかも
死んだ田園から迷い込んだ
消しゴムの消し滓の様な一匹の羽虫
電灯の紐に縋るさまが余りにも潔い
縋る術を知らぬ者こそが本当の弱者なのだ
手持無沙汰に編んだ指先
何処の何にも触れまいとする愚かな心の様に思えた
昨日まで吹き荒んでいた風が今夜は無い
季節が変わる為の儀式は昨日で全て終わったのかもしれない
様々なものが風に浚われて何処かへ消えて行く度に
体躯が幾分かの
血を流した様な気分になる
死というものがこの生の何十年かの蓄積であるのなら
それが今我が許に有っても
少しも不思議なことなど無い
意義を嘆くことを止めたのは
誕生から数えて何千日目の愚考だったのか?
消し滓の様な羽虫がふらふらと落ちる
最後に何を見たのか遺言の代わりに教えておくれ
卓上でやがて灰になる
その名も告げぬままの仄かな虫よ