チェイス インザ レイン
umineko
高速道路は、おりしもの強い雨で、視界もひどく悪い。私はちょっと急いでいたので、追い越し車線をそのまま走ることになる。
120キロ。雨の高速では、あまりほめられたスピードではない。走行車線の方は、トラックやら軽自動車やらの混在で、90キロが、せいぜい。
気づくと、真後ろには白いスポーツカー。シルビアだろうか。知らない人も多いと思うが、チューンするとけっこう楽しい車だ。絶版になったのは、日産の首脳陣が、利益主義の大号令をかけたためと聞く。まあどうでもいいことだが。
そのシルビア、何を思ったか、こちらにぴったりとくっついてくる。
(おいおい大丈夫かアンタ)
私は、ちょっと身構える。この雨で、この視界だ。小さなハンドルさばきのミスは、取り返しのつかないことになってしまう。
私は、持ち前の好奇心で、ちょっといたずらしてみることにした。アクセルを、ゆっくりと踏む。メーターの針が、小刻みに揺れる。彼との距離が、少し離れる。
と。シルビアも小さく反応した。バックミラーに映る影は、たよりなく小さくなり、そしてまた大きくなる。私のアルファくんは楽しそうにエンジン音を上げていく。
カーチェイス、にも見えるだろうし、二匹のこねこがじゃれあっている、ように見えないこともない。私がもし、ここでブレーキを踏めば。小さな小石にハンドルをとられれば。この雨だ、どんなことになるのだろうか。
走る。走る。
私は身も知らぬその車と。いのちをかけて走る。走る。
無謀なことを、と人はいう。慎みなさい、とたしなめる。
だが。恋はどうだ。
見知らぬ相手と、追いつ追われつの、壮絶なカーチェイスを。
笑う資格を私は持たない。
追いかける。アクセルを踏む。リスクなんてわかってる。
アクセルを踏む。少し笑う。きっともうわかってた。
雨が。
ひどく降っていた。