さくら さよら さら さら
たちばなまこと

きみが少し元気なときに
庭に植えた白梅に
真珠の粒がころころと
それは春の序章とも言える

きみが好きだった春の 前髪が見えて
それはきみの季節とも言えるが
メディアから塗りつけられる春の音(ね)が
きみのおわりばかり 強くなぞる
から
きみのおもかげの手を引いて
散歩に出る
ほら、お花。
抱き上げて香りを教える
ひとさし指が反対向き
あ、しゃ。
鉄橋を揺さぶる京王線の がたん ごとんが
多摩川に響いてゆく
めじろが落とす花びら
花びらにはどれにも
さよならと書いてある

うぐいすを追いかけて
梅の香りの公園へゆく
ほら、うめの花。
背伸びして花を撫でる手は
あ、わんわん。
反対向きの鳩に向かって駆けてゆく
ベンチで本を読もうとした
老紳士が席を移ると
見えないけれどあの木の枝に
ほーぅほけきょ と鳴く

きみが詩ったクリームのくちばしは
みんな大きく口を開けて
青空からのえさを待っている
ほら、白もくれん。
大きな、お花。
きみのおもかげは黙ったまま
足もとの花びらを 一枚拾う
花びらにはどれにも
さよならと書いてあって
さよなら さよならと 降りかかる
きみのおもかげは
クリームの花びらをかじって
小さな歯形が “な“ を欠いて
さよら さよら さら さらと

また さよならの序章
ほら、さくら。
きみのおもかげは くるりと振り返り
誰かが放ったパンをつつく 鳩とむくどりを
あ、わんわん。 って…
ひとりになった母は さくら さくらと唄う
明日の雨上がりには
ほぅ… とためいきをつきながら
一輪 百輪 千輪と
物語が開く
さくら さくら
さよら さよら
さら さら
花びらにはどれにも
さよならと書いてある



自由詩 さくら さよら さら さら Copyright たちばなまこと 2008-03-24 13:42:21
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