こめかみのうずき
日野 タマ
急いでドーナツを
むしゃぶり尽くす
「おいしいね、おいしいね、お」と
言いながら
三日月を見上げている
冷たい夜風など吹いている
昨日誰かが交通事故で死んだらしい
雪道でスピード出しすぎたらしい
僕はハリボテになって丸まってしまう
開いた心? 閉じた心?
弱さなんて見せてたまるものか
そうだ死んだあの子も強かった
一人で病気と闘ってたんだ
小さな部屋の中で
まっしろの白さに目が痛くなる
ヒリヒリするじゃねぇか、ちくしょう
まばたきする
涙が頬をつたう
ラベンダーの香りがしている
洗濯物はたしかたたんだはずだ
虫眼鏡で見てみると
たくさんの細菌たちが元気に暮らしている
笑いながら幸せに生きている
もうちょっと右側だよ、ベイベー
そう、そこの角ッコのところにさ
甘い蜜をセメントのように流し込んで
溝を満たしてあげようぜ
僕は知らない間に遊んでいる
地団駄ふんで無いものねだりしている
ゆうべのおかずも足りないらしい
体脂肪率も急上昇
弱ったなぁ 参ったなぁ
プロレス観戦していると
横から誰かが僕にヘッドロックかけるんだ
画面の中では外国人レスラーがブレーンバスター
「それは韻をふんでいるみたいだ」と
僕が言う 君が笑う
蝶々が家の中を通り過ぎ 窓から出て行く
僕たちはそれを見送る
満ち足りない何かを心の底に見つける
僕のこめかみはジンジンうずき出す
死後の世界のレポートを
僕のパソコン宛てに送信してよ
君に何もしてあげられなかった僕だけど
少しだけ役に立たせてよ
強さと弱さがまぜこぜになっている
プリンの黄色と黒みたくハッキリ分かれてない
最近、いつも気づくと
難しい顔をしている自分がいる
一秒先のことなんて分かるはずがないのに
毎日に怯えていたんだ僕は
今日は
三日月がきれいだ
満月の中にウサギの姿を認識できない
僕にとっては苛立ちを覚えることもない
ただドーナツの穴が
まわりの世界に一体化して
完全に境界線を失ったときに
「死ぬ」ということが
こういうことなのかもしれないと
少し思ったりもして
またこめかみがジンジンうずき出すのだった