雀蛾
井岡護
くすみ汚れたその翅の
美しさのないさざなみの様な紋様の
幻惑 潤みきった私の
目がかつて切望した婦人の姿 雀蛾よ
そうやってお前は拒んでいた その
冷え切った身から刻み付ける響きの
出でていく事を 日々の依頼を聞き入れる事を
拒んでいた 声を押し出す事を
しかし視たのだ聴いたのだ 切りもなしに
お前は その氷った鼓膜に網膜に
贈り付けられる物たちの宝物を その脳骸に
仕舞い込み視たのだ聴いたのだ 忌々しい程に
雀蛾よ 歌わぬ者の充溢は決してないのに
まだ際限なく献上される供物を 空虚の中へ
捧げ続けているのか まるでガラクタの様に
雀蛾よ この梔子に眠る事はもういつまでもない