花人形と陽
砂木

窓際 春のはじめの陽に
鉢植えの花が咲いてゆく
緑の葉が孔雀のようだ
朝と昼と夜が流れている

その少し離れた台所の隅に
チューリップの造花がある
流し台のガスコンロの近く
ひそりと赤く佇んでいる
今 咲き始めた春の花に
ただ 沈黙している

だいだい色にふちどられた
やわらかな白い花びらを
やっと咲いたねと 
眺めて喜びをかわす人々を
花のない冬も 花をかたどり
春を信じさせた造花は
なにもしていないように
変わらずに 眠らずに

蜜を求めるものは訪れないだろう
手折るものも 
その花に似せた姿を欲しがり
本物の花が咲いたら忘れ

枯れない花を求めながら
枯れないものは花ではないと

逆らえない形の奴隷のように
嘆きも涙も笑みもないけれど

必要だからここにいるのでしょうと
人の心が吹き込んだ生命を
ひたすらに 信じている









自由詩 花人形と陽 Copyright 砂木 2008-03-23 20:28:19
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