花人形と陽
砂木
窓際 春のはじめの陽に
鉢植えの花が咲いてゆく
緑の葉が孔雀のようだ
朝と昼と夜が流れている
その少し離れた台所の隅に
チューリップの造花がある
流し台のガスコンロの近く
ひそりと赤く佇んでいる
今 咲き始めた春の花に
ただ 沈黙している
だいだい色にふちどられた
やわらかな白い花びらを
やっと咲いたねと
眺めて喜びをかわす人々を
花のない冬も 花をかたどり
春を信じさせた造花は
なにもしていないように
変わらずに 眠らずに
蜜を求めるものは訪れないだろう
手折るものも
その花に似せた姿を欲しがり
本物の花が咲いたら忘れ
枯れない花を求めながら
枯れないものは花ではないと
逆らえない形の奴隷のように
嘆きも涙も笑みもないけれど
必要だからここにいるのでしょうと
人の心が吹き込んだ生命を
ひたすらに 信じている