停滞する為のイベント
狩心

体のパーツを 四角い画用紙に敷き詰めて 新しい駅弁を作っている
髪の毛はスパゲッティ
腕はエビフライ
足は大根やら人参やら 和風の煮物
胴体部分はラザニア
爪や歯は 歯応えのある 沢庵や福神漬
脳味噌はカレーで 全体を包み隠すように垂れ流す
顔だけは使わない

皮膚や神経は包装のパックに使う
バーコードは目
駅弁の購入者を見定める為
今の時代は既に
買われる者が買う者を見定める時代
一体誰が私を
別の場所へと移動させるのか
ショーウィンドウの中で蹲りながら
流れる情報を見定めている

知らない誰かの
消費生活によって
私はその体内に落ちる
そこでは別の食料たちが
荒ぶる胃液と格闘しながら
消化され
消えていく

私は格闘しない
栄養素となり あなたの体中を侵食し あなたを乗っ取る
その計画において あなたの血液が私を運ぶ
あなたの心臓の記憶細胞に 過去に消化された私の一部を求めて
出会う 時 新しい電車のベル
体中が痙攣し あなたの電気系統は全てショートする

そしてあなたの体内から広がる四角い画用紙
あなたの内側を少しずつ皮膚化し
あなたの内側にもう一つの外界を作る
しかしそこに空気はなく真空
真空の中で生きる者たちの場所
風の音も聞こえない

目が白目になった体
まったく動かないので
救急車が駆けつける
あなたの体は救急車とドッキングし
都会の中を
他の車を縫うようにして突き進む
信号無視を繰り返しながら

辿り着いたのは病院ではなく駅
駅前のロータリーには廃車になった救急車が積み上げられている
あなたはその天辺を目指すか
中心に激突し 大破するかを選べる
二本の足で歩く者たちが 駅に吸い込まれていくのを見て あなたは
自分が初めて駅弁を食べた時の事を思い出すだろう
少々高かったが 満腹感を満たすにはそれなりの効果があったかと
自らを安心させるのだろう

積み上げられた廃車の山は 巨人の姿に変貌し
色々なものを揃えた コンビニエンスストアになるだろう
しかしコンビニエンスストアの弁当は駅弁と違って
どこかに移動する為ではなく
そこに留まり続ける為の装置として作成されるだろう
無添加無着色であっても
そこに人の温もりは存在しない


自由詩 停滞する為のイベント Copyright 狩心 2008-03-23 16:29:42
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