俺はと言うと
松本 卓也

しあわせな言葉ったらし共が
今日も社会と隔離された理想郷で
中身の無い幸福を謳っているとき

俺はと言うと九州の西端で
印刷するたびに一行ずつずれていく
請求書のデザインを直していた

言葉を己から切り離してしまえば
何を書いても自然に出てきたと
言い訳できるのは甚だ楽で良い

例え自分で作ったものでなくても
納品先にとっちゃウチの作ったもの
言い訳なんかできる筈も無い

人から生まれたものが
そう軽々しく人から離れてくれれば
適当に物作っててもおマンマが食える

気楽に継ぎ接ぎ衣装を作ってれば
有り難がって買ってくれるような人達
何処かに落ちてやしないかね

言葉はただ生まれるものだ
才能に恵まれていらっしゃる方々が
恍惚と悦に入っている時

俺はと言うと
二時半で終わるはずの仕事が
七時を回ってもまだ終わっていなかった

ただがむしゃらに生き残る
その証を立てているだけだった


自由詩 俺はと言うと Copyright 松本 卓也 2008-03-22 23:42:29
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