俺はと言うと
松本 卓也
しあわせな言葉ったらし共が
今日も社会と隔離された理想郷で
中身の無い幸福を謳っているとき
俺はと言うと九州の西端で
印刷するたびに一行ずつずれていく
請求書のデザインを直していた
言葉を己から切り離してしまえば
何を書いても自然に出てきたと
言い訳できるのは甚だ楽で良い
例え自分で作ったものでなくても
納品先にとっちゃウチの作ったもの
言い訳なんかできる筈も無い
人から生まれたものが
そう軽々しく人から離れてくれれば
適当に物作っててもおマンマが食える
気楽に継ぎ接ぎ衣装を作ってれば
有り難がって買ってくれるような人達
何処かに落ちてやしないかね
言葉はただ生まれるものだ
才能に恵まれていらっしゃる方々が
恍惚と悦に入っている時
俺はと言うと
二時半で終わるはずの仕事が
七時を回ってもまだ終わっていなかった
ただがむしゃらに生き残る
その証を立てているだけだった