目印
狩心
侵食されないこの部分から
侵食されるあの部分まで
等間隔に画びょうを打ち付けて行こう
画びょうの先端部分は減り込む
床は声を上げる
どこぞの知らない夫婦に
腕組みしながら睨み付けられて
めっぽう弱い
神風のように運任せで
でも奇跡が起きるのよと
懺悔する毎日だ
それは一つの消印でもあった
女が男のような声を上げる時
図書館のウルフが不眠症の薬を噛み砕く
その音
地から回転する円盤状の放射線物質
放射線状に拡散する吐息と
惨めな助産婦の姿が重なる
左手もない
右手もない
でも暗い穴蔵から何かを引き摺る音
呼吸する音よりも大きく
胸の中で風船のように弾けた
シャンパンを米神に垂らす
重力は事もあろうか
期待を裏切って
皮膚の中に浸透した
重く圧し掛かる愛撫は
昨日見た夢
黄金の眼差し
機械樹の羽を持っている
それは虚しくも空を切り裂き
なぜだか新しい世界を構築してしまう
どんどん濡れていく
濡れるはずのない硬い硝子が
ひょっとこの顔をしながら踊る
タコのような腕で誰だか知らない千切れた左手を振り回して
イカのような腕で誰でもいいような血生臭い右手を掲げながら
その踊りはゆっくりと
肛門の奥へと続いていた
その場所は知っていた
過去にスタート地点と呼んでいた場所
そこが今ではゴール地点
もしくは足首の休憩地点へと変貌する
しかしその周辺には
無数の真っ黒い穴が誰かの手によって掘られていて
一歩でも歩こうものならまた違う世界へと引きずり込まれる
始めは優しい
どんな腕も
どんな顔も
始めは優しい
騙されないようにと
目に一つの画びょうをお見舞いする
どうもありがとう
病気だった目はぺこりと会釈をした後
スキップしながら一歩歩んでしまった
次の瞬間に落下して
もう二度と会えない底なし沼の穴へと
感動を封じ込めてしまった
哀れな分身
お前の姿は私の脳裏脳細胞にしか焼き付いていない
それも焼け焦げた
丁度12時を突き刺すトーストの匂い
全ての事柄において出遅れたと悟る休日
首から上を失った午後
手元だけが手探りで地面を触った
そこに冷たい感触
過去に突き刺した画びょう
皮肉な事か
私を死へと誘ったものが
今では私を生へと誘う
目印になった
目が見えないせいで
穴は埋まった
そして風の音が聞けるようになった
遠くで笑う夫婦も
今では友達のように思える
言葉が侵食していた
この場所からあの場所まで
本当に歩いた事は
一度でもあったか
硬い硝子が揺れて
傾斜角45度を作り出す
私は滑るようにして笑い
火縄銃の中で卵を守った
カチンという音
そしてもう一回
カチンという音
何度でも引き金を引く
米神が貫通するまで
地面は垂直と化し
壁となる
そして柱となり
また新しい建造物が立つ
この無意識とも呼べる構築が
いつも夜を運んでくる
この見えない目に
さらに真に黒い
優しさの音を求めて
ああ
同じものと同じものが融合していく
二つであったものが一つになる
抜け殻から脱皮した蝉は
さらに大きい蝉へと変貌するのだ
夏の言葉が雨のように降り続け
秋は遠い彼方
その頃出会った彼女の背中が割れて
そこからもう一人の自分が出てきてにやりと笑う
またか
どこまでも鏡のような空
光を硬く反射する強い意志
そのバリケードにおいて
図書館のウルフは
微生物のミジンコへと変貌する
顕微鏡の世界にしか理想はない
歓喜したのは水中の中
歩き出したのはマグマ
夜明けが
ドレミファソラシドを奏でる
逃げられない絶体絶命の音階
近所のオバサンは今日も買い物をする
血生臭い右手と
知らない誰かの左手を
隠しながら