ドライブ
なかがわひろか

腕切るわなんて言い出すから、せやったらやってみいよというと、困った顔になって、ほら見たことかそんな度胸もないくせにと笑って冷蔵庫のビールを取り出して、だからお前はいっつも脅すだけで何にもできへんねんなどといいながら部屋に戻ると床一面血で真っ赤に染まって、ああなんかきれいやなあとふと思っていたら、お前が白い目むきながらこっちを向いたから、ああこれはかなんことになってしもたと思って、急いで救急車呼ばなと携帯探したら、ちょうど家に忘れてきとって、しょうがないからお前の携帯を取ろうとしてお前をまさぐったら真っ赤な血がいっぱいついた携帯が出てきた。ああなんか汚いなあって思って触るん嫌だったけど、とにかくはよ119押さなあかんと思って、バカっと携帯開いたら突然電話がかかってきてなんやこのタイミングなんかのドラマかと一人つっこみながら思わず出たら、お前の友達のるりちゃんからで、今何しとんってかかってきて、いや今ちょっと大変なんやって言うたら、ケン君一緒におったんや言うてキンキン声で言われたからちょっと耳から携帯離したらなんやごちゃごちゃしゃべってたけど、こっちはそれどころやないからさあどないしよと思ってたら大きな声で、6時に駅前のガスト集合なあという声だけ聞こえて電話はやっと切れた。6時かあ今何時なんやろと思って携帯見たら5時45分て表示されてたからまだ時間あるわあそれまでになんとか間に合うかしらて思ってとにかく119に電話をした。携帯相変わらず汚いから耳に当たらんようにしてたら一回目の音ですぐ出てくれてああこんなときにも一生懸命仕事してはるんやなあと思てたら向こうがいろいろ言うてきたから、とにかく今のこと伝えなあかんと思ってお前のこと言うたらすぐ行きますから、と言われて住所何処ですかて言われてそういえばお前の住所知らんかったいっつも駅に着いたらお前が迎えに来てたから何にも覚えておらへんわと思って表札見に行って、せやけど何にも書いたらへんだからああ、お前に聞いたらええんやと思ってまた部屋に戻ったらもうなんや虫の息で、お前もええ、なんで助けへんのみたいな目で見てきて、いや助けたいんやけど、どうしようもなくてななと思ってたら電話の向こうで救急隊員が叫んでて、とりあえず近くの公園まで来てくださいって言う俺なわけやけど、確か近くの公園があったなあと思ってまた外に見にいったんやけど、まあ確かに小さい公園はあるんやけど、あの説明でほんまに来てくれるんけと思ったけど、まあ向こうさんはプロなんやしなんとかしてくれるやろと思ってたら、そんなんじゃ分かりませんみたいなことまた言われて、ほなもうええわあってなって電話切ってもう一本ビール出してとりあえず飲んだ。ああせや今日は車で来てるんやったってやっと思い出して、お前をバスタオルで包んで下まで降りて行って車に乗せてああ血で汚れてまうわあと思いながら車出して、しばらく行ってからあ鍵かけてくんの忘れてたと思って引き返そかなと思ったけど、こういうときに引き返すのんてちょっとどうなん、みたいに思ってとりあえず病院まで車走らしてたらああそういえば病院どこにあんのか知らんなあそれにしてもええ天気やなあこのままどっか行きたいなあなんて思って今日もドライブ。


散文(批評随筆小説等) ドライブ Copyright なかがわひろか 2008-03-22 01:14:05
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