春の約束
ましろ

春はそっとやってくる
毎年必ずやってくる
まるで地球からの約束のように

だから 私は放り出される
野原の真ん中に
「春の嵐」
真っ白な頭に昨夜の天気予報がよぎっていく

私は冬が好きだ
暖めた部屋で
ノースリーブ一枚のままアイスを舐める
冷えた部屋で
フリースの達磨になり言葉を詩を書きつける

それでも
「クェークェー」と聞こえれば
冷たい窓へ走り
鉛色の空を裂く白鳥の群れを追いつづける

スーパーの駐車場で
車のフロントガラスに張りついた
雪をみつめる
美しい結晶に 溶けてゆくまで…
そして慌てて家へとむかうのだ
そう 生まれ変わって

けれど
春はやってきて
花見だ 花見だ と
衣替えすら始めぬうちに世間は騒ぎ出す

汗がじっとりと滲んで
たまらず私はニット帽を脱ぐ

あれは子供の頃
家族で行った桜山 
「はいチーズ」で
おにぎり海苔の緑の舌を突き出した
飛んできた父の拳固
大好きな母の俵型のおにぎりは
いつもよりしょっぱい

まだ 私は飛べない
ピンクの花びらを
これでもかと美しく揺らし散らす桜とは
一緒には飛べない

けれど 
私は野原にいるから
土筆や蝶やタンポポに つい気をよくして
あなたとの約束を思い出し
いつの間にか
フレアースカートなんかをひらひらさせて
まぶしい花畑を少女のように駆け出すだろう


自由詩 春の約束 Copyright ましろ 2008-03-21 16:53:20
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