帰還
ここ

私の身体は
ブリキのようにきしみ
もう一人の私が
背中にしがみついて離れない
心を
闇の鎖がしばり
壁の見えない
洞窟の中に立つ私には
消えかけたたいまつの照らす
貧しい灯りしか見えない
掌には
不快な油がにじみ
握る剣には
侮蔑の色が宿る

闇を追い払おうともがけばもがくほどに
鎖は
締まっていき
意識は
もうろうとなる
呼吸は
恐れをなし
絶望の中に
辛うじてただ立ち尽くす

暗闇の中に
一粒の星の瞬きをおぼえ
たいまつを投げ捨て
目を凝らしその瞬きを目指す
少しずつ
光は増し
身体を
かすかに照らし始める
闇の鎖は
光に気づき動きをとめる
私は
確信をもち
残るすべての力をその光に向ける

もはや光は
完全に私を包み込み
闇の鎖は
音も無くその幾重ものしばりを解いていく
私は
一人になる
掌の油は
私の身体に戻り
ブリキは
軽やかに躍動し始める
剣は
待ち人の帰還を認め
服従の色に変わる
私の身体と同化していく






自由詩 帰還 Copyright ここ 2008-03-20 23:57:14
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