ミッション
狩心

削岩機の中に燃えいずる恋
溢れ出る太陽
ぴかぴかに磨いた靴に
鏡の残像を貼り付けて

急所に
君への手紙
抜け落ちた髪に
あの人への手紙
煎餅布団の硬さに
何度も寝返りを打つ朝だ

起きる事はないだろう
起きてはいるが目を開ける事はないだろう
透明な窓
ベランダを越えて
その硬さを感じたままで
大気中の分子として飛び立っていくのだ

魑魅魍魎が囀るだろう
自転車を漕いで擦れ過ぎた内太股を哀れむだろう
団地妻がベランダから見ている
若々しい美男子の泥棒が
大気に消えていく様を
サーカスのように感じ取ろうとしている
ばら銭がポケットから落ちる
それがひとつの
弔いにはならないだろうか

元気な黄色い太陽を被ったぴかぴかの一年生の行列に
ひしゃげた顔の中年オヤジを見せつける
毛穴が開き切った鼻の天辺から
縮れた毛がアヴァンギャルドに攻めてくる
もちろん一年生は度肝を抜かれる
度肝を抜かれすぎて
内臓すべてが抜き取られる
真空のカマイタチ
表面の皮膚上にはまったく傷を付けず、
やさしい素振りで陵辱するのだ

危険信号は恋
恋が咲き乱れている今が
冬と春の境目だからだ
そうだ
未亡人のあの人に
ビックリマンカードをプレゼントしよう
さぞ、喜ばないだろう

しょうがないよ、僕はサドなのだから
そのようなぶりっ子を装わなければならない
そのようなミッション
もちろん快晴
ぴかぴかに靴を磨いた日には
自動的に背景が快晴へと変わるのだ

たぶん彼は起きている
君に届く為の事件として

君はマゾなのだから
ベランダで一人
美しすぎる青空を見ているに違いない
そこでタップを踏んで
「私はお姫様♪」
なんて呟いているに違いない
硬い煎餅布団を布団叩きで叩きながら
急所に貼り付けた手紙を
体全身で読んでいるに違いない
待ってて君!
今、君の内側から現れ出るよ
完璧なまでに
君の皮膚を花火のようにぶちまけて!

ごっつぁんです
ごっつあぁぁんです
ごっつ、ああああん(はぁと)です。
味噌も糞も一緒だナァ、この味噌は
脳味噌と言うらしい
赤味噌、白味噌とか言うが、
この場合は赤血球、白血球と呼ぼう
赤血球の諸君
おまえらはまず、素材を買って来てはくれないか
手も足もおまえらには無いが、おまえらには舞空術がある、
そして大気に、流される力がある、風は味方だ、
さぁ、僕の手首から飛び立つのだ
白血球の諸君
おまえらはモルヒネを所持している、
つまり赤血球たちが主である俺の元から旅立ったその寂しさを一時麻痺させる
そして赤血球たちがホームシックにならないように監視するのだ
のっぺらぼうであるおまえたちのかおは
もはや僕にとっては天然記念物だ
いや、天使だという事
うん、それが言いたかったんだ
すまんね、分かり辛くて、てへへ

雷の匂いがするよ
雨雲が近付いてきた証拠だ
ぴかぴかだった靴はボロボロになっている
それもいい
僕はぴかぴかの一年生を体中で謳歌している
だから勇気を出して全身を脱ぐのだ
このベランダから泳いでいく
雨雲が頭上に来た瞬間を見計らって
このベランダから泳いでいく
一直線に走るそれは
地上から空を見上げるひしゃげた顔をした中年オヤジの目に
龍の如き雷として目撃されるに違いない
「飛ぶ男、真空を省みず」
心の中の新聞には
そう
記載されるに違いない

寄生していくミッション
あらぶる魂の解放
人と人の目が交錯し
魔方陣を描く時
きっと見えてくるだろう
今までの君に見えなかった世界
もう僕と君の目は一つになった
だから心配する事ないよ
君が見た青空は
僕が見る青空


自由詩 ミッション Copyright 狩心 2008-03-18 20:22:08
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狩心 no まとめ 【 四 】