『虹のように犬のように、』
川村 透

--僕の、美しい人の話をしよう。

さっきまで、おしっこみたいな雨が降っていたのに
太陽の奴ったら
まるで君の妹のように、甘酸っぱい笑みをうかべて
うそみたいにけろっと晴れちまう、
なんて。

僕のまつげをちりちりと焦がす
レモンの始まった日、七月一日
君はフリルのついた傘をくるくる、回すばかりで
黄色い、空の妹と、まぶしそうに、ウインクをかわす
のに夢中で、僕のいう事には生返事で
ちっとも聞いてくれないんだ。


紫陽花は、青年のようにうつむいて。


--僕の、美しい獣の話をしよう。

さっきまで花のように微笑んでいたはずなのに
君も僕も、日傘の陰に隠れてこんなに蒼い顔をして
もう君たちのレモンがあんまり苦いから
僕は裏声でうたってしまうよ

レ―ニン、レ―ニン、ここにいて
僕は、大丈夫じゃない
スタ―リン、スタ―リン、そこ、にいたんだ
君と赤い、うたをうたった
プ―チン、プ―チン、どこかに、消えて
僕はただ、甘えていたかった。


--僕たちの、美しい獣の話だったね

僕たちはカキ氷みたいに、冬、にレモン水をかけたんだ
レモンの始まった日、七月一日
僕たちはすれ違う
右手と左手のように
一本の日傘の元で決して束ねられない
虹のように犬のように
僕は裏声で、うたってしまうよ

平和、平和、どこに、いる?
僕たちは、今、大丈夫、じゃない
ダ―リン、ダ―リン、ここにいて、も
僕たちは、まだ、不幸じゃない


--僕の、美しい人の話をしよう。
--僕の、美しい獣の話をしよう。

--僕たちの、美しい獣の話だったね
--僕は裏声で、うたってしまうよ


梅雨明けて。失語の雨ぞ、降る。


虹のように犬のように、平和。


僕たちはただ、甘えていたかっただけだ。


紫陽花は、青年のようにうつむいて。


---------------------------------------------------------
【BGM】矢井田瞳  
My Sweet Darlin′  Buzzstyle   Ring my Bell


自由詩 『虹のように犬のように、』 Copyright 川村 透 2004-07-02 09:52:45
notebook Home 戻る  過去 未来