かわく蕾
亜樹

薄汚れた茶色の天井と
古い紙の匂いと
真新しい本の匂い
部屋の中心のストーブの上
やかんがシュンシュンと音を立てる
そのお湯で淹れられたコーヒーの匂いは
そのまま壁に染み付いて
また新しい染みになる。

こんなにも
しっかりと思い出せる
高校の司書室に
飾られていた
ドライフラワー
司書の先生が、
咲かないほうがいい
と言う
咲かないほうが
いいドライフラワーになるの、と。

水気のない花びらを
彼女は優しく撫ぜていた。

そのとき彼女は
どんな表情をしてたのだろう?
薄汚れた茶色の天井と
古い紙の匂いと
真新しい本の匂い
部屋の中心のストーブの上
やかんがシュンシュンと音を立てる
そのお湯で淹れられたコーヒーの匂いは
そのまま壁に染み付いて
また新しい染みになる。
あの薄暗くやさしく湿っぽい司書室で
黒い長い髪をした
やさしく賢く臆病な
私に良く似たあの人の
あの日の顔が
長いこと思い出せなかったのだけれど
今日顔を洗ったら
鏡の中に
彼女がいた。

咲かないほうが
よかったのに、と
恨みがましく
呟きながら。


自由詩 かわく蕾 Copyright 亜樹 2008-03-14 16:21:39
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