菜の花畑の老夫 
服部 剛

この世が 
何処まで歩いても追いつかない 
見果てぬ場所への旅路なら 

仕事の後の 
誰も来ない秘密の部屋で 
わたしは横たわり 
時々現れる 
「夢のドア」に入る 

足を踏み入れ 
振り返ると 
背後のドアはすでに消え 
目の前に広がるおぼろな景色 

いちめんの菜の花の向こうに 
一軒の赤い家があり 
歩いていってきしんだ木のドアを開く

独り住まいの老夫はきゅうすを手に 
茶をそそぐ湯呑みから
ゆげは昇る 


( ちっくたっく ちっくたっく ちっくたっく・・・ )


ことんときゅうすを置いた 
老夫はゆっくりとこちらに 
顔を上げる 


( ごーん ごーん ごーん )


机の上はすでに 
ふたつ並んだ湯呑みの間に 
一冊の本が置かれ 
古びた表紙の題字に 
わたしの名前が記されていた 








自由詩 菜の花畑の老夫  Copyright 服部 剛 2008-03-13 19:34:39
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