天神鬼悪霊狂
狩心
おもいだあせ
ねむれなくてションベンちびったチビ助の頃を
古く腐った廊下の置く置く キッで出来た扉の置くの置く
開いた口塞がらないよ 小さな硝子の窓を開ければ 隣の土の壁 垂直に絶叫する
便器の中から呼び声 下半身が誕生し 窓の外の落下物から跳ね上がる汚物の臭気
蜘蛛の巣のように割れた窓から回転する上半身 現れ 合い重なる 手の平に汗
午前2時半から3時までの永遠 布団の中でもごもごした呼吸
腐った廊下をミシミシと這い寄る誰かが 仮設住宅的なプラスチックのドアを叩く開く
ドアノブは回転する 永遠に向かって 闇だ
レールが滑る 硬いカーテンが移動する 油だらけの 黄ばんだシミの声
天井を見据えたまま硬直し 誰かが耳元で囁く 「 む か え に き た よ 」
手を掴まれ 足を結ばれ 口には異物が混入 無理矢理に無言の沈黙の中を
腐り湿った締め切った廊下を引き摺られ キッで出来た扉が開いて入植する
小便が出来ない
小便をしろ
小便が出来ない
小便をしろ
大きな鎌に灰色のローブ 目はグリグリと回転し 黒目白目黒目白目のオンパレード交互
口語式に受胎 受け入れたくなかった心の置くの置く
腕の関節内側辺りの柔らかい皮膚から 細い手首の命まで
大きな鎌を突き立てられ 線を引かれ 引き裂く 十字に開く口の傷口 「 あ あ あ 」
ぴゅーという音 じょろじょろという音 天井をボーっと見詰めながら 「 あ あ あ 」
小便が出た
小便が出た
寒い廊下 誰も起きてない子供の闇の夜 確かに一人で怯えていた
顔の見えない得体の知れない背の高いローブの悪霊に 狂っていた 乗り移る
硝子の窓が割れる音 隣の土の壁 ざらついた皮膚のよう
建物と建物の小さな隙間に挟まれるようにして落下する 湿ったティッシュの群れ
増殖する 雨の音と一緒に 階段を上る 目的地は便所 下半身が生まれた 叫びの便所の中
気を失ったら朝
温かい布団を除けて 窓から差し込む光が頬を愛撫する
一瞬の思考の後 始まりだと着替えを始める 古い上半身を脱ぎ去る
ただし 腕の関節内側辺りの柔らかい皮膚から 細い手首の命まで
深く刻まれた傷 消えない どす黒く赤い 断崖絶壁の影
血が一滴も出ない 不可思議な傷 触ると かさかさと音を立てて動いた
波打つ足 病院へ向かう 誰も何も分からないと言う
血も出ない傷に 甘いゼリーを染み込ませたカーゼをいっぱい詰め込んで 子供騙しの様な応急処置 それで終わり
この世界から切り離された気分 チビ助は町を歩いた影 炎の如く 地上の道路で消滅した
傷は突然消えた 何の前触れもなく 魔法のように
チビ助は思う もう一度 あの悪霊に会いたいと
黒と黄色と赤
その日から町中の信号機が変わった
信号が黒の時にだけ
チビ助はそこを渡る
せかい
散りばめられている
網膜の裏側でダンスする
遺伝子信号が世界を
モノクロにするまで
セピア色にするまで
目の中にガーゼ
眠れない夜は今もなお
記憶の奥底で眠る
せかい
チビ助はそこにいる