83ばあちゃん
あすくれかおす



おばあちゃんは83回目の誕生日だった

小さくて肩がしぼんでみえた

年の数だけ抱きしめたなら

笑って消え去りそうだった

琥珀みたいにさらさらと




83分の1回だけ

そっとその手を握ってみた

あの頃は貧しかったのよ、とつぶやきながら

縁側で見えない列車と夜を見つめていた

星々を線路に敷き詰めて




8と3とで11本ね

説明をしてから火をつけた

ろうそくの灯りが息吹きを待っていた

たとえそのせいで消えてしまうとしても

ひとつひとつが今をあたためていた




ケーキは甘いのねえ

おばあちゃんのときはお芋だったわ

今もそうだよ おばあちゃんの順番だよ

そう話しかけたけれど ふふふと繰り返した

おばあちゃんのときはお芋だったわ




ミシンのダイアルのところに

幸せそうな人がいる

83回目のありがとうが添えられてる

おばあちゃんはやっぱりかわいいね

生まれてはじめてのプリクラ写真




「こうちゃん またあの話 聞かせてちょうだい」

ぼくは巻貝になって おばあちゃんに物語を届ける

ハロー 聞こえてますか?

友だちよりも 恋人よりも

父母よりもずっと先のほうにある耳で





83回も抱きしめてしまったら

さらさらと琥珀色の月になってしまう

だから一度だけそっと手を握る

たとえそのせいで消えてしまうとしても

あなたのひとつひとつがぼくをあたためている










自由詩 83ばあちゃん Copyright あすくれかおす 2008-03-11 23:14:16
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