ポエジーの目覚めの頃
きりえしふみ
「私のポエジー」という女は酷く睡眠好きだ
夜毎強いアルコールに酩酊して
朝の光じゃ呼び出し不能
原稿用紙の幾重にも重ねられた白いシーツの下 そのまた奥の奥……下の方で
美麗にして妖艶 鮮やかで若々しい その形からでは
とてもじゃないが結び付きそうにない
おおいびきを ほらまた、だ 高い鼻梁から吐き出している
二昔前以上には残っていたであろう もくもくとした機関車のその煙のように
それは長々と尾を引いて 引き起こしそうにない 軽やかな彼女の為の朝
故に私は仕方なく いつもと変わらぬ正午 手荒な抱擁で
夢路より彼女を引き立てて行くのだ 現へと
全くその気はないものの 女同士の接吻さえ その時ばかりは厭わない
ポエジーという名の女は酷い怠け者 鈍感者でもあるのだから
そうでもしなけりゃ 彼女
高級ホテルのラウンジバーでも開店となる時刻まで眠り兼ねない
故に私は時に手荒に ペンで彼女をつっつき起こす
白々しく黙り返る 原稿用紙の白い戸という戸を
ノックは不要と取り外す
頗る機嫌の悪い時には
前触れもなしに 実力行使で彼女を引き立ていく
とうに明るい 昼下がりの庭先へと……そして
そのまま組み立て作業だ
忘れ去られそうな 文字群や溜め息……くらっと眩暈がしそうだ めかし込んだ粋なリズム
朝霧漂う春の箱庭 建設していく
白いばかりの紙切れ 砂丘の上で
町を 湖城を 木々を 風を
建築していく 他人には不可視の心を 人に浸透し易い文字へ 変換していく
睡眠好きな彼女が 漸くカーディガン、肩に羽織って
「お紅茶、頂けて?」と 優雅に小首を傾げる頃
今日も不朽を求める私の一篇が 軽やかに立ち現れる 若木のように
編み目の見えない花や葡萄の 彼女に映えるドレスの刺繍のように
まるで夢見る女の 甘い溜め息
そのように現れる 彼女ら……詩は
(c)shifumi kirye