別れの手前 止まない音
緋月 衣瑠香

雨のリズム
秒針の鼓動
一定に停まる気配もなく
ただ無機質に

「只今、午後4時39分になりました」
電子音が遠くから聞こえる
見えるはずの海のむこうは見えない
もやがかかって曖昧に直線を描く

机には古びた彫り傷の跡
壁には誰かのいたずら書き

私の席は
この教室と呼ばれる箱のちょうど真ん中

どうして
ここに座ってたんだろう
どうして
皆離れていくんだろう
どうして
ここに今私しかいないんだろう
あ、
もう放課後か

上質な表紙のアルバム
友達と先生のコメント
いままでずっとすぐそばにいたのに
ひとつひとつが
嬉しいけど、哀しい

まぶたを閉じれば聴こえる
黒板にチョークがあたる音
仲間の話し声と笑い声と
それぞれの心臓が刻む音

でも
まぶたを開ければ
また
雨のリズム
秒針の鼓動

自分の心臓の音

明日もまた
この制服で 声で
皆と逢えるかな

雨のリズム
秒針の鼓動
一定に停まる気配もなく
ただ無機質に











自由詩 別れの手前 止まない音 Copyright 緋月 衣瑠香 2008-03-10 19:25:20
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