錯覚
sekka
「愛していると思ったのは錯覚だった」
そう言って別れを告げて
逃げるようにあなたの前から去った
許さないという留守番電話のメッセージ
それが最後に聞いたあなたの声だった
電話番号を変えようかと思った
引越しをしようかと思った
だけど電話はならなかった
家の前に人影が立っていないか
遠くから窺いながら家に帰った
怖かった 怖くて怖くて どきどきした
だけどあなたは来なかった
二人で会っていたとき
私があなたにせがんだものは
ただひとつ 手紙だった
メールがあるじゃないかと言うあなたに
それでも手紙がほしいのと言った
毎日 郵便受けを覗いた
あなたの前から逃げても
あなたからの手紙が届くように
引越しもせずに
習慣のように郵便受けを覗いた
だけど私はあなたの書いた文字を今も知らない
「愛していると思ったのは錯覚だった」
そう言って別れを告げて
逃げるようにあなたの前から去っても
愛されているとは思っていた