巡査
草野大悟

これでも
巡査は、けっこう忙しいのだ。

<私の飼ってる夢が逃げました>
とか
<私の影を落としました>
とか
訳の分からない相談受けたり

<あのカタツムリは汚職をしてます>
とか
<隣の犬は人なんです>
とか
もうすこしで
笑い出しそうな電話もある。


つい先日も
<私のDNAが四十億年前に盗まれました>
と、イルカ顔が被害届を出しにきたので
よくよく話を聞いてみると
なんのことはない
そのイルカ顔は
もともとこの世に存在するはずがない
と判明したりして。


巡査は、けっこう大変なのだ。


かれこれ二十六光年
この仕事をしているけれど
最近だんだん
自分の座る椅子がなくなって。

そりゃあ昔は
あちこちに椅子もあった。
ところが、そいつが分解して、
ほら、
いま座っているこの椅子だって
脚の一つが
すでに分解しかかっている。


いやはや
今度は何かい
血相変えて
駆け込んでくるところをみると
イージーオーダーの憲法が
殺されたとでも言うのかい。



自由詩 巡査 Copyright 草野大悟 2004-06-30 22:39:53
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