午後
ヨルノテガム




女が白い喉首をそらして
紅茶を空ける
カップは長くいつまでも口唇とふれている
瞼は閉じられて
なかなか開かれそうにない

テーブル、
無防備な左手の指の間をくぐり抜けて遊ぶ風が吹いた
女の鼻がお空を指して矢印になる
束ねられた髪の長さがわからない

女は紅茶を 喉の奥へ迷わせて
足のつま先へ辿り着くのを待ち焦がれている
耳の蝸牛へ旅の紅茶の報告が送られてく
口唇から僅かな汁が垂れて急いで戻るようだ
いつまでも
女の喉首は反り上がって
噛み付かれた点から 紅茶は甘く漏れ滴る

アゴ骨は硬い曲り角なのです、と
カップは皿の上へ 泣き帰る





男は紅茶を喉へ落とす
砂漠に水をこぼしたようにしみ入ってしまった
空になったカップの底を
クリクリとした瞳が泳ぎまわる
やっと香りが男の鼻腔へ回り始めた

頑丈な指が狭苦しく取っ手にまとわりつく
柔らかな白い陶器と喧嘩してるみたいだ
飲み干す前から力はみなぎっている
男はカップを斜めにして、すすり終った
太い管の首は一段と盛り上がり
食べれるのであればカップをも砕き味わおうと
口唇の上で様子を窺う

ほんの数秒で
紅茶は身体を2周半ほど駆け巡ったのだろう
カップを皿の上へコトリと置いて
男は脱力から戻れなくなった みるみるうちに
気と身体はしぼんで消え入る

停止というべき余韻へと浸りつかって
男はしばらく骸骨になってしまう













自由詩 午後 Copyright ヨルノテガム 2008-03-07 01:20:31
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