午後
ヨルノテガム
女が白い喉首をそらして
紅茶を空ける
カップは長くいつまでも口唇とふれている
瞼は閉じられて
なかなか開かれそうにない
テーブル、
無防備な左手の指の間をくぐり抜けて遊ぶ風が吹いた
女の鼻がお空を指して矢印になる
束ねられた髪の長さがわからない
女は紅茶を 喉の奥へ迷わせて
足のつま先へ辿り着くのを待ち焦がれている
耳の蝸牛へ旅の紅茶の報告が送られてく
口唇から僅かな汁が垂れて急いで戻るようだ
いつまでも
女の喉首は反り上がって
噛み付かれた点から 紅茶は甘く漏れ滴る
アゴ骨は硬い曲り角なのです、と
カップは皿の上へ 泣き帰る
*
男は紅茶を喉へ落とす
砂漠に水をこぼしたようにしみ入ってしまった
空になったカップの底を
クリクリとした瞳が泳ぎまわる
やっと香りが男の鼻腔へ回り始めた
頑丈な指が狭苦しく取っ手にまとわりつく
柔らかな白い陶器と喧嘩してるみたいだ
飲み干す前から力はみなぎっている
男はカップを斜めにして、すすり終った
太い管の首は一段と盛り上がり
食べれるのであればカップをも砕き味わおうと
口唇の上で様子を窺う
ほんの数秒で
紅茶は身体を2周半ほど駆け巡ったのだろう
カップを皿の上へコトリと置いて
男は脱力から戻れなくなった みるみるうちに
気と身体はしぼんで消え入る
停止というべき余韻へと浸りつかって
男はしばらく骸骨になってしまう