ペンキ職人
天野茂典
ペンキ職人
天野茂典
青いペンキ
台詞のない声
遠くからやってくる海
炎の青空
どこにも出てゆかない砂
ぼくの病棟が乾燥している
シマリスとあそんでいる
ナキウサギとあそんでいる
バーチャルな意識は
いまごろは北海道だ
水がたけり狂っている
被災地は不眠だ
旭岳では
もうどこにもゆけないシマフクロウが
高い枝にとまったままで
2003 7・31〜8・1
黄色いペンキ
ひまわりはきいろいペンキだ
人間もきいろいペンキだ
地球もきいろいペンキで塗られている
山も海もきいろいペンキだ
きいろいペンキは猿の犯罪だ
一夜にして一斉に蜂起し
猿が人間の網膜を張替え
きいろいペンキを塗ったのだ
人間が猿だったころ
太陽はきいろのペンキを溶かし
続けていたという
桃色のペンキ
地球が桃色に光っている
この惑星からみると
何億光年も離れて
産毛がはえて
たわわに実っているようで
豊かな農園にみえる
けっして
桃色爆弾なんかじゃないよね
茶色いペンキ
江ノ島海岸は
茶色いペンキで塗られている
波は茶色で 人も茶色である
海の家も かき氷も茶色である
茶色のサングラスが似合うのである
緑色のペンキ
映画は緑色である
映画村は緑色である
SF装置は緑色である
時代俳優は緑色である
フィルムもスクリーンも緑色である
イエジー・カワレロウイッチも緑色である
夜行列車も緑色である
月光に緑色にひかっているのだ
光は緑色だから
オレンジ色のペンキ
スコッチはオレンジ色である
飲むほどにオレンジ色になるのである
港からとりよせられた魚をつまみに
ちびちびやるのである
太陽はオレンジ色である
だから人間も酔うほどにオレンジ色に
近づくのであろう
青色のペンキ
水は青色である
人間はほとんど水からできている
青色のペンキが流れ込んでいるのである
また赤い川が生命を支えている
草原の猿から進化して
二足歩行の生命体は
青いペンキを浴びている
赤いペンキ
扉からあらわれるのはキリンではなかった
赤い顔の人間でもなく
青い顔の人間でもなかった
扉は日に何回もひらかれるが
でてくるものはレプリカだった
てざわりもよく ほんものそっくりだったが
体温がなかった
そこでペンキをまくことにした
血のような真っ赤なペンキ
扉はみるみる 焔のように崩れだした
だから人間は地球のように
青く輝くものに
憧れつづけるのだ