串焼き
木屋 亞万
串焼きがしたくなった。
電柱を串にしようと、先端が尖るように磨製の石斧で研いでいたらば、石槍にもなるような気がして、太陽に向かって投げてみたら、飛ぶ鳥を落とす勢いで空を突き上げていった。針みたいに小さくなった頃、ふらりと下を向いて放物線を描き始めた。煙突と煙が支配する港を悠々と越えてしまって、向こう岸の砂漠を抜けて地球に引っ張られながら、サバンナ辺りに突き刺さった。
はっきりした槍の行方が知りたくなったので、宅配ピザを手配した。煙突避けの履物と煙避けの頑丈眼鏡を装着し、煙突を壊さないように細心の注意を払いながら地元の港を行き過ぎた。荷物を濡らさないようにまとめて頭に載せ、蛙直伝のかえる足で海を渡る。途中、無人島でピザを頬張り、アンチョビの塩辛さと海水との相性に舌を巻く。
後半は空を見ながら背泳ぎ。太陽は間違いなく旨いだろうなと思う。半熟の目玉焼きを彷彿とさせる、とろみたっぷりの濃い味だ。チーズが口でまだこんがりと、塩味は口の端で弾けている。
砂漠も勢いで泳いで渡ったら、背中と脇腹が少し痒くなった。耳に細かい砂が入って、少し動くだけで臨場感溢れる波の音が聞こえるようになった。
キリン燃えるサバンナに辿り着いて槍を探していたら、クシザシライオンと出会った。突然変異なのか何なのか、背中に電柱が刺さった不思議な姿のライオンだった。
「痛そうですね、可哀相に。私が食べて差し上げましょう。これも分母の底知れぬ運命、空から槍が降って来ただって!それは災難でしたね、お気の毒に」
ゾウの串焼きでもするつもりが、ライオンが串に刺さってやってきた。鴨ねぎinサバンナじゃないか。まだ口には塩味が残っている。かじりつくなら今しかない。耳元では大波が打ち寄せる。獅子鍋はさぞかし旨かろう。
石斧を振りかぶり息の根を止めてしまうべく振りおろす。砂漠の泥のように冷たい目が、私を見詰めたまま地に落ちた。血がしたたる灰色の斧、砂に染み込む赤黒い液体。塩水が私の眼と鼻から流れ出て、きっと海水か、砂にやられた粘膜の分泌液だろう。
ここはどこだったか
私はなぜ目の前の弱った命を右手の石斧で断ったのか。弱らせたのも私の気まぐれ。こんなはずではなかった。陽気な旅に浮かれていただけ。ライオンの骨以外すべてを激情の炎で焼き上げて、約束通り平らげた。
サバンナでは土葬はしないという動物の掟にしたがって、骨は太陽の下に置いておく。
サバンナ吹きすぎる砂煙に、煙避けのサングラスを装着し、涙流しながら歩いた帰り道。煙突避けの安全靴を履いて、骨をカリカリ踏みしめる。蟻地獄から砂漠の底へ潜り、息苦しい砂の海を抜けた。海に出ても変わらず歩き続け、死んで海の藻屑になるならば、それでも構わないなと思った。体中に砂と塩が染み込んで、全身の血潮は汚れ始めた。
私は人間になってしまった。
その日から太陽には串が、誰かの八つ当たりによって、突き刺さることになった。いわゆる電柱というやつが、太陽のとろけそうな核に獅子の血潮を淀みなく注ぐ。
串はそれ以来ずっと焼かれている。