ニヤっとね
紫音
空が青く見えるのは錯覚
鏡に映る私は幻覚
いま、この瞬間に
紫煙とアルコールに満たされた私は
何?
何も無いことが
なんでも在ることで
規定されることでしか
規定されない存在
私は私で私ではなく
空洞で廃墟で何もなく
それでもここに在る
だから私は私を纏う
纏って初めて私になる
そう
空っぽだから外皮が必要
例えばそう
君が私を纏ったら
私は君
君は私
でも本当はそんなことどうでも良くて
結局空っぽの上に羽織るだけ
同じこと
言葉を纏う
私の言葉
私の詩
それはまるで墓標のよう
死に行く言葉
死に逝く私
終極に向かい生きていることは
死にゆくことと同じ
それでも墓標は綴られる
綴られ続ける
それは
死に続けながら生きている
ただそれだけの理由
私は死なない
空っぽだから
中には何も無い
だから墓標を綴る
せめてもの
痕跡として
何も無いことは
何でも在ることだから
ブランドを纏い化粧をし
下心満載で君と話すことさえできる
化粧を落としたら
もうそれは私ではないから
地下鉄の窓越しに映る自分に
何かが透けて見えているのは錯覚じゃない
空っぽの投影が幻影となり
そこに重なる“今”を掠め取るだけ
外套に身を包み
雨の中をひた走るネコが
申し訳なさそうに足元に擦り寄ったとして
果たしてシュレディンガー足り得るのは
ネコか
はたまた私か
魚屋は言うだろうさ
「これがマグロだろうが深海魚だろうが、そう思って食べれば同じだよ」
これが結局真実
哲学が追い求めた私には
何も残されてなどいやしない
コギト・エルゴ・スム
ゆえに
という言葉は
何者も救いはしない
思索すること足る私
証明や定理の空疎を
知るのは私
幻影を信じることができれば
どれだけか微笑みが
神も天使も抹殺された
死んだ
エクリチュールの花束は
すっかり枯れ果てて久しい
気付かぬフリをするうちに
明日は私をもたらしはしない
あるのは
ちょっとしたブランドの服と
もしかしたらシャンパンかもしれない
バレンシアオレンジが美味しいのは夢の中で
本当はただのオレンジと区別なんてついていないんだろ?
シンデレラが灰被り姫だったとして
でもある人が見ればシンデレラで
ある人が見れば奴隷以下で
挙句復讐するような嫉妬の塊で
規定は所詮そんなものでしかなく
チュシャ猫じゃなく三日月ウサギみたいなもの
消えてしまってさえ
世界は冷笑で満たされている
ニヤっとね