疑惑のひと
恋月 ぴの
「おつかれさま」
思わず「えっ」と聞き返してしまった
久しく労わりのことばなんて無かったのに
何かにつけて話しかけてくるし
誰かさんからの着信メールを気にしなくなった
あなたの言葉を素直に受け入れることできなくて
笑顔の裏に何かあるのかと勘ぐってしまう
不定形の幸せに満たされていると
哀しみとかそんなものに焦がれてしまい
よそよそしい態度に安らぎさえ感じていた
或る日突然現実を突きつけられて
半狂乱のまま泣き叫び
殺意の眼差しで睨み返す私の姿がここにある
何事も無かったような顔のあなたに
どうしようも無い程の苛立ちを抑えきれず
通勤駅へと急ぐあなたの背中に向けて
指で作った拳銃の引き金を引く