「都」
菊尾

ドアの外は暗い暗い霧の都
離した指に巻かれている糸は虚ろ
君がどこかから取り出した小さな鋏
魔法のように集まっていた想いの粒は散らばって

靴紐に足を取られてつまづく
温度差には過敏な反応
紐は結ばずにそのままにしていた
足早に後ろ姿ばかり残すから
後を付いていくだけで並べないまま

固い地面に響く足音
遠くの煙突からため息みたいな白い煙
気付けば霧の中から幾つか人影
みんな歩いてる
縋るように前のめりになりながら
忘れるために歩いてる


人知れず消えていく感情があって
バスがそれだけ運んでくれたらいいのに
君がくれた幻想は夢より残酷で
ぶれてしまった軸に戸惑わされて
鏡で見る自分に違和感を感じてる


黒い木々がざわつく
影が蒸気のように踊る
声は届かない
息がもたない
行方知れずの僕と君の場所
今では何もかも砕けてしまったんだ


夢遊病のような僕らが集う都には
季節なんて存在しない
忘れるまでそこに居る
今日も一人また一人
知らない誰かがやってくる


自由詩 「都」 Copyright 菊尾 2008-03-03 18:10:23
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