けもの のけもの
Utakata
いたい
と 君が言って
いたい
と それを何度も
くりかえすうちに
いたい
は ちいさなけものの形になって
遠くへ走りさってしまった
***
世界は なるほどよくできたもので
そういったたぐいのものは
見えなくても 日々 廻るものです
だれかが
いたい
と言うたびに
あたらしい
一匹のちいさなけもの
***
この世界には もう
それほど多くの隠れ場所は
のこっていないので
それでも
小さな隅を見つけては からだをよせあい
ひそひそ
ひそひそと
それらは なく
(ぼくのもちぬしは
いたい
(というので
(ぼくはなるべく とおくへにげます
(わらってください
(わらってください もう
いたい
(といわなくても いいのなら
(もう ぼくをおもわずとも いいのです
そんなふうにして
***
もしかしたら
目のはしをよこぎる
だれかの
いたい
を
見ることも
もしかしたら あるかもしれません
***
君はもう
いたい
といわない
あのときのちいさなけものは まだ
どこかで身を寄せているはずなのだけれど