けもの のけもの
Utakata

いたい

     と 君が言って

いたい

     と それを何度も
     くりかえすうちに

いたい

     は ちいさなけものの形になって
     遠くへ走りさってしまった

***

     世界は なるほどよくできたもので
     そういったたぐいのものは
     見えなくても 日々 廻るものです

     だれかが

いたい

     と言うたびに
     あたらしい
     一匹のちいさなけもの

***

     この世界には もう
     それほど多くの隠れ場所は
     のこっていないので
     それでも
     小さな隅を見つけては からだをよせあい
     ひそひそ
     ひそひそと
     それらは なく


         (ぼくのもちぬしは

いたい

         (というので
         (ぼくはなるべく とおくへにげます
         (わらってください
         (わらってください もう

いたい

         (といわなくても いいのなら
         (もう ぼくをおもわずとも いいのです

     そんなふうにして

***

     もしかしたら
     目のはしをよこぎる
     だれかの

いたい

     を
     見ることも
     もしかしたら あるかもしれません

***

     君はもう

いたい

     といわない
     あのときのちいさなけものは まだ
     どこかで身を寄せているはずなのだけれど




自由詩 けもの のけもの Copyright Utakata 2008-03-02 18:28:30
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