目の前を
佐々木妖精

たった1度のテロで汚染される土地に
ビルなんか建てるもんじゃない
石ころ一つで割れてしまう雨戸に
鍵をかけるなんて馬鹿らしい
記憶ほど確かなものはない
突き破ろうとすると飲まれてしまうし
振り払うとまとわりつく



街の形に見合うよう待ち構えて歩き
迫る門を着込む
真夜中はナイフを孕む
酒瓶は振り下ろされるために買われたのか
店員は紙幣をすかしたりはしなかったが
レジの中にスタンガンを忍ばせていた
ホテルを壁伝いに歩いていたのに
カーテンしかなくなって背中に銃口を突き付けられ
蛇口から異臭が漏れる
飛び出せば若葉マークが危険を訴える
赤ちゃんが乗ってます
赤ちゃんが乗ってます
免許証を投げ捨てる

逃げ帰れば布団に誰か寝ている
陰口を言われてお前だからと指で刺される
拳を握ろうとしたら爪がなかった
知られたらおしまいだ

だから



いずれいなくなる人と
探り合ってる暇はない
いなくなった人を
断罪するなんて馬鹿馬鹿しい
記憶ほど不確かなものはない
どこにもない


自由詩 目の前を Copyright 佐々木妖精 2008-03-02 13:45:39
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