じいちゃん
ここ
私の前を
一台のトラクターが通っていく
エンジンは悲鳴を上げ
しかしその音と反比例するかのごとき
スピードで
私の前を
一台のトラクターが通っていく
タバコを燻らし
もう片方の手はしっかりとハンドルを握り締め
そのじいちゃんは
脇目も振らず
前だけを見据え
私の前を
一台のトラクターが通っていく
ここは国道だ
これは田舎のみ許される特権か
自家用車やトラックに追い越されながら
しかし脇に寄る素振りも見せず
私の前を
一台のトラクターが離れていく
遠目に見える
ガソリンスタンドに向けて
ゆっくりと
愚直に
呆然とする私を置き去りにし
真っ赤な夕日に照らされながら
一台のトラクターは突き進んでいく