草蔭
渡邉建志

湧き上がる温かい気持ちをその気持ちをそのその
また吹き上がるものを大切に包んでは静かにあなたの
手をほどきはらはら、頭上から落葉が降ったのです



ガラスでできた手指が滑らかにすべり
内なる光が一面、白い反射を与えます



昔話をきかせよう 君が生まれる前の暗い時代のことや
その前の明るい時代のことを 昔話はつづく 草蔭で
ざわめく森、光 しばらく鳥がとまどっている 風がおさまる
のを待っているわたしたち かれら
きかせようね、楽しい、たのしいお話だよ



過ぎ去った日々を思っても霧のように消えていくだけ
空から降ってくるお迎えの天使たちの歌声のトリルがきこえるかい
そろそろだよ、僕は
自転車に乗った黄色い服の女の子たちが走り抜けていく
もうそれも僕には遠い憧れ
きこえてくるうたに目を閉じる 落葉がかかる



霧とガラスのむこうに若かった僕が見える
帽子をかぶる僕 歩く僕 泳ぐ僕 歌う僕
すべてが明るく光っていた僕はもうかすんでかすんで

ひそひそ話のように。光は震えている。鳥はもう飛ばない。



自由詩 草蔭 Copyright 渡邉建志 2008-03-01 22:32:14
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