僕の大切なものよ
右肩良久

 君は震えて傾いでいます
 それが誕生という時間の持つスタイルだから

 僕も君と同様に傾いでいるけれども
 それはもうどうでもいいこと

 昨日見た父の遺骨の埋葬されている墓地の
 白木の卒塔婆も傾いでおり
 三羽の雀がおりました

 君の傾いた本質を肉体という形で
 僕は
 受け取ります。裸の君を
 初めての冬を越えた若木の芽のような
 剥き出しのペニスを目立たせて
 泣きもせずにゆったりと呼吸する
 生まれて間もない君を
 抱くんだ

 この朧の夜に
 僕はどこか遠い砂漠の幻から
 無理矢理に君を引き出した
 はるか以前の夜だか昼だかの
 吐き気がするほどありふれた生殖行為によって

 ごめんなさいありがとうごめんなさいありがとう

 傾いでいるからすべてが滑り落ちる
 逃れ得ない存在という様式に従って
 僕も
 僕の大好きな君も


自由詩 僕の大切なものよ Copyright 右肩良久 2008-03-01 22:13:23
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