明日の4時には新宿であきと待ち合わせをする
それから昨日買ったワンピースを着て
エナメルの靴を鳴らしながらあきと会う
夜、吸わない煙草を吸うフリをして東京タワーに恋をする
ベランダでいつものように
ヘッドホンで音楽を聞いて隣のベランダから覗く
いつまでも乾かない洗濯物を見る
「あんたって男を狂わすんだよ」
高校生のとき、男から言われた
そんなことないよというと、そんなことあるんだよと言って
男は真剣に私をみてた
私の制服をじいっと見て
どうしてもと言って私のボタンを荒くはずした
私はマスカラ片手に目をしっかり開いてた
唇はあえいでしまってはふり、と真っ赤になった
そうだ、リップクリームするの忘れてた
今は午前4時
都会の喧騒だとか、そういうの
あんまり感じなくなった
最近は
あーお風呂はいらなきゃ
マニキュアしなきゃ
それからトリートメントとかして、あ
そうだ下着はどれにしようかな
「勝手に壊れてくんだ。あんたは主体的に壊そうとしてないから、
男はさも自分で望んだかのように壊れていくんだよ」
男は確かに私にそういった
だけどそんなの知らないよと言ったら男の動きはもっと激しくなった
「好きだよ」といわれたけど、何にも感じなかったので
コンドームと一緒にゴミ箱に捨てた
しぼんだ水風船みたいになって
コンドームはゴミ箱にぺしゃりとへばりついた
ツナ缶に吸殻がずいぶん溜まって灰があふれそうになっている
何人か前の彼氏が吸ってたメンソールの臭いが嫌い
隣の部屋から漏れるTVの明かりがベランダの壁に映って青白く反射する
あたしあんまり好きじゃない
そういうの
壊れるとか、壊すとか
そういうの
TVの反射みたいにちかちか映ってさみしいの
洗濯物がいつまでも乾かなくってずうっと干しっぱなしなの
植木鉢の植物達が枯れていく悲鳴をきくの
そういうの全部
好きじゃない
東京タワーの電気がいつまでも消えないからなんか嬉しくて
あたしは恋をした
明日は新宿で待ち合わせ
あきと新宿で待ち合わせ
あたしは恋をしていた
都会の喧騒は嫌い
だけど、東京タワーの明かりは好き
あたしは恋を夢見ていた
あたしは気が違ったことがある
ナイフを片手に狂ってしまったことがある
狂ったまま月を迎えて垂れ流したことがある
喪失したことがあって
階段を登るたびに死んでしまおうかと考えたことがある
何度も男に誘われたことがある
何度も抱かれたことがある
何度も何度も囁かれたことがある
何度も嘘をついたことがある
恋について話をしようか
赤い月の夜に見えなくなってしまった
嘘みたいなあなたの歯あとについて
結局は簡易ドラックのように安っぽい
そんな恋について
どうやって世界は成り立っているのかとか
どうしたら世界は成り立っていくのかとか
そんなこと全部話すの
恋についての哲学
眠りながら
結局はひとり
自分の中でいつも
両性の存在を感じる
社会的な役割と性的行為以外での性別の意味を
あたしは知らないし知りたくない
性についての描写についてはバタイユくらいでいい
明日はあきと待ち合わせ
なのに家のベランダで
あたしはこんなお遊戯を夜の世界に見ている
「あなたは普通にしていたって、そんな才能がある
人を壊してしまうあぶない才能」
夢の中の魚が月と東京タワーに恋をしていて
高校生のときの恋みたいな
あるいは東京タワーのイルミネーションみたいな
ときめくみたいな恋のお遊戯を
もしくは回想のような幻想を
ずっと乾かない洗濯物みたいにベランダで感じてるから
あたしはずっと夜の海を泳げないんだ
男は続けてこういった
でも、いつまでも続く倒錯ってきっとないよねって
新宿は午前4時
あきと待ち合わせをするあたしの姿は
たぶんそこにはない