菱型の季節
Utakata


                 青
                左手で
雨              散り飛んだ
ずっと           滑らかな炭酸水
嘘のまま         七月のインク浸して
色硝子越し       真夏の欠片で踵を切った
夏至に恋して     街往く鯨にすれちがうたびに
死を見た十五歳   叫びだすサンデイ・シンドローム
         いつだって「たぶんね」で話を終えた
        君の魂を小さくたたんでポケットに入れる
       冬色コートに忘れられたままで気付きもしない
      年輪の代わりに雲母のかけらを一枚ずつ剥いでゆく
     満月水銀灯の光の中で終らない物語を続けるアルタイル
    「本当はみんな死んでるような気がする」と屋上の風が言う
    アンダルシアへ行った友達が石灰石の下へ埋葬された絵葉書を
   飛ばした紙飛行機が空を埋め尽くした夢を映し出すラムネ工場の跡
  最初にさよならを告げた瞬間に世界のどこかで終わりが訪れると知った
   向日葵の花弁を一枚ずつ千切りとりながら女たちは巡礼を続ける
    嘘をつく度にその子の口からは小さな金魚が滑り出ていった
     台風の来た日に透明な鋏で髪の毛を切っては記憶を悼む
      やわらかな骨を綴じこんだまま水溜に浮く蜻蛉の羽
       うすみどりの風のなかに水母が溶けた夜明け前
        ずっと遠くの祭囃子を耳のおくに閉じ込め
         頑なに結ぶ掌でそれでも溶けつづける
          二つの檸檬の乗る文机の上の手紙
           土に埋めた子犬が骨になる日     彼岸花の傍
            雨の為に泣いた筈だった       嗤う亡霊
             狂った時計を合図に         瞬いた
              歩き出した九月           赤い
               折畳まれて             魚
                ねむる
                 魂


自由詩 菱型の季節 Copyright Utakata 2008-02-29 16:09:00
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