井戸の中で
江田孝太

井戸に落ちた彼は今、切り取られた空を見る
雨なんか降ってたら最悪だった
けど季節はもう春のようで
蝶々だって飛んでそう

鳥がこんなに羨ましいなんてね
井戸に落ちた甲斐ってやつだね
得意のジョークを
誰も笑ってくれやしない

三食昼寝付きならこういうのも
そう悪くはないね
やっぱり笑う人は
彼以外いない
空気がほんの少し揺れるだけ

夜が近づく
彼の声はガラガラに嗄れた
いつまでたっても
助けはこない
彼自身もまた
枯れてしまいそう

さっきからふと
失くしたものが落ちてきそうな
気がするんだけどね

彼は呟く

誰かがそっと蓋をしてしまいそうな
気もするんだけどね

それでも
彼は最後に助けられる
そういう夢を見る


自由詩 井戸の中で Copyright 江田孝太 2008-02-29 15:12:33
notebook Home 戻る