世界のパーツの一つとしての
伊那 果
空爆に叫ぶ地もあり どんよりと優雅な午後のこの一時に
雨よりももっと激しい晴れの日が過ぎていく 広い広い世界で
対岸の大病院の灯り皆消えて 天井の闇 見つめる人も
台風の接近告げる声遠く 空には月が一途に光る
若き日の悩める母への絵葉書が茶色いページの間に眠る
何もない夕暮れ歩く 紅い陽に染まるまま人を愛してみたい
ここにないものの輝き ここにあるものの静けさ 比べようもなく
四季を持つ国に暮らしてきたけれど季節の境界(さかい)未だ出会わず
秋続く どこかでことりと音がする 結末の章をそっと盗み見る
湧く水を失った泉 冷たさをすくいとるため手を差し入れる
あおぎみる空は明るく どこまでもこの身が伸びて虹に届く時