世界のパーツの一つとしての
伊那 果

空爆に叫ぶ地もあり どんよりと優雅な午後のこの一時に

雨よりももっと激しい晴れの日が過ぎていく 広い広い世界で

対岸の大病院の灯り皆消えて 天井の闇 見つめる人も

台風の接近告げる声遠く 空には月が一途に光る

若き日の悩める母への絵葉書が茶色いページの間に眠る

何もない夕暮れ歩く 紅い陽に染まるまま人を愛してみたい

ここにないものの輝き ここにあるものの静けさ 比べようもなく

四季を持つ国に暮らしてきたけれど季節の境界(さかい)未だ出会わず

秋続く どこかでことりと音がする 結末の章をそっと盗み見る

湧く水を失った泉 冷たさをすくいとるため手を差し入れる

あおぎみる空は明るく どこまでもこの身が伸びて虹に届く時


短歌 世界のパーツの一つとしての Copyright 伊那 果 2008-02-29 14:49:52
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