セスナ
mizu K



すな、空のように口ずさんで
空のむこうにセスナがみえた
夕くれなずむ砂浜の色が
遷移していくさまにみとれて
セスナが制御を失っていくさまを
子どもと手をつないでみていた

神がくれにかくれる人はあんな風に空に
消えていくんだよ僕もいつかセスナに
乗ってみたいなあと子どもが言う

空のむこうにセスナがみえる
既に空の、空のむこう側に行ってしまって
こちら側にはいない

風が吹いている
風が吹いているから砂浜の砂が
さらさら飛んでいる
さらさら飛んでいるのに
口の中はざらざらしてきた
たぶん家に帰ったら耳のなかもざらざらだね
そう、子どもが言う

砂が風紋をつけるさまを子どもと
手をつないでみていた
みていた夕ぐれ
みていた太陽の
落日のしかしまだ強さを十分に残した日ざし

太陽にかくれた
セスナが黒い点になっている
光が強くて直視できない
ほら、あんまり眺めると目がみえなくなるよ
昔そうやって目をつぶしたお坊さんがいてね
そう子どもに言ってみる

目がみえない人って
いつも暗やみがみえてるのかな
目がみえなくっても
セスナは操縦できるのかな
だってあのセスナは
あんなに太陽の近くを飛んでるんだ
きっと乗っているパイロットの人は
目がみえなくなっているよ

風が吹いている
風が吹いているから砂丘の砂が
さらさら飛んでいる
風がつけていく風紋を
帰り道
子どもとみながら歩く
来るときとは模様が違う
そう
こうして旅人は砂漠でさまようのだ
二つ、三つと蜃気楼が浮かんで
みしらぬ国の夢をみながら
旅人は死のねむりにつく

太陽にかくれて黒い点になっていたセスナが
まだ遠くの海の上を飛んでいる
あの操縦士は目がみえなくなったろうか
それでもいつもの勘をたよりに
操縦桿を必死で握っているのだろうか

セスナが徐々に制御を失っていく

すな、空のように口ずさんで
空のむこうにセスナがみえた
夕くれなずむ砂浜の色が
遷移していくさまにみとれて
セスナが制御を失っていくさまを
子どもと手をつないでみていた




自由詩 セスナ Copyright mizu K 2008-02-29 01:22:31
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